| 香織:森嘉さんには140年以上の歴史がおありなんですよね? 
  森嘉:そう、安政の頃に出来た店なんだよ。でも、最初は木挽きの傍らやっていたんだ。  香織:ぇ、最初からお豆腐一筋だったわけじゃないんですか? 
  森嘉:豆腐が庶民の中に普及したのは江戸の半ば頃のことで、この店が出来る前のことなんだよ。だから最初は受注したら作る、という形だったんだ。 
  香織:そうなんですかぁ。森嘉さんといえば、川端康成さんの「古都」という映画の中にも店名が使用されたとか。 
  森嘉:先代のことなんでよく分かりませんが、映画のチケットを頂いて観に行った記憶がありますね。 
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| ↑平日だというのに行列が出来ています!! | 
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| 香織:昔から注目されていたってことですね! 
  森嘉:その頃はうちみたいな柔らかくて甘い、つるんとしたお豆腐は珍しかったんじゃないですかね。
   まぁ、ほんの少ししか映画にでてきませんけど。(笑) 
  香織:森嘉さんのお豆腐って一般的なお豆腐とは違っていて、独自の世界を築いている感じですよね。やはりポイントはにがりではなく、硫酸カルシウム(すまし粉)を使っているところだと思うのですが、なぜすまし粉を使うようになったんですか? 
  森嘉:硫酸カルシウムでの製法は親父が戦中、中国で知ったんです。だから、戦後にがりが手に入りにくかったときにいち早く取り入れ、初めることが出来たんですよ。 
  香織:そうなんですか。にがりの供給が高まっても、硫酸カルシウムにこだわり続けたのはなぜですか? 
  森嘉:にがり製法か硫酸カルシウム製法か、どちらにするかについては親父と祖父のあいだで揉めた時期もありましたね。結局は、柔らかい豆腐が評判になってきていたので、にがり製法派の祖父がひいたという形だったんだと思います。 
  香織:その選択が森嘉さんの個性をさらに伸ばすことになったんですね。 
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| ↑ありったけの愛情を持って慈しむようにお豆腐に包丁を入れているのが感じられます。 | 
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| 森嘉:うちの店の豆腐は、1丁が普通の店の2丁ぶんくらいあるんです。うちの豆腐はかなり柔らかいですが、手で持っても崩れないんですよ。 
  香織:わぁ、本当だ。弾力がありますね、手の形がうっすら浮き出る! 
  森嘉:柔らかいだけじゃないんですよ。祖母がよく「うちの絹ごしは、お汁に入れても散らしまへんえ」と言ってました。京都では絹は寒天で固めていたんですが、そうすると煮ると散ってしまう。でも硫酸カルシウムは散らないんですよ。  香織:柔らかいのに散らないなんてすごい。聞けば聞くほど良い豆腐ですね。さてさて、次は、森嘉豆腐のこだわりの製法について教えて下さい。 
  森嘉:まずはこの地釜。地釜を使って豆腐を作る豆腐屋は珍しいんですよ。 
  香織:地釜?地釜ってなんですか? 
  森嘉:地釜とは薪で炊く釜のこと。炎で直接温めます。この釜で濃い豆乳を作るのは難しいんですよ。豆乳を濃くすると地釜に焦げ付いてしまうから、売り物にならなくなってしまうんです。でも上手に作れると、豆を炒ったような香ばしい匂いが豆腐に残るんです。 
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| ↑もっている白豆腐に手の形が浮き出ているのが分かりますか!? | 
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| 香織:職人さんの技がいるんですね。でも、薪で炊くなんてなんだかレトロ。ガスじゃダメなんですか? 
  森嘉:ガスの火力じゃダメ、無限の火力がある薪じゃないと。松が主流でしたが、今は減ってきています。下から空気を入れて火力を強くするので松だと早く燃えつきてしまうんですね。今は、くぬぎの薪を使っています。 
  香織:くぬぎ?? 
  森嘉:そぅ。だから、しいたけの栽培がある限り薪は無くならないんです。 
  香織:わぁ、またレトロなものを見つけた。これって石臼ですよね? 
  森嘉:森嘉では百十年間くらい石臼を使っていたんですよ。石臼に比べて早く擂れるという点で便利だったので、戦後グラインダーにとって変わったんです。グラインダーは1分間に3200回転するのに対して、石臼は60回転程度しか
できないんですよ。 
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| 香織:どうしてまた石臼に戻したんですか? 
  森嘉:石臼で擂ると時間はかかりますが、粒子の形が均一にならないので水に浮くんです。グラインダーだと均一になってしまう。仕掛け水に呉が浮かなくては焦げ付いてしまうので、呉にするのは石臼が良いと結論がでたんです。石臼でするとたんぱく質が熱編成しない、なんていうのもポイントですよね。 
  香織:いろいろ試行錯誤しているんですね。 
  森嘉:韓国の石臼の原理応用のグラインダーなんかも見たりしたんですよ。でもやっぱり石臼がいいですね。 
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| ↑たくさんの出来立てのがんも!一つ欲しい…(笑) | 
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| 香織:機材にもこだわりを感じますが、やはり素材にもこだわっているんですか? 
  森嘉:もちろん。大豆がまずいと豆腐もまずくなると思ってます。エンレイ、きな粉用大豆のミズクグリを使用しています。香りが香ばしくて良いんですが、手に入りにくいんです。長い付き合いの雑穀屋さんに、信頼関係で売ってもらっているんですよ。割合でいうと、国内60%、カナダ産40%で大豆を使っています 
  香織:以前は国内産とアメリカ産の大豆を使っていましたよね? 
  森嘉:そうです、でも一定の大豆を集めるのはなかなか難しいんですよ。去年良かった大豆農家のを今年も頼んでみたら、種子変更があって違うものになっていたりとか。なので、カナダ産からアメリカ産に戻ることもあるかもしれないです。 
  香織:その年その年によって、ベストな大豆を選ぶのは大変でしょうね。水もやっぱり京都の水を使っているんですか? 
  森嘉:ボーリングの地下水が7割です。京に近い豆が京都の水に合うと私は考えています。井戸水はうちの店の生命線といっても過言じゃありません。 
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| ↑京都府から送られる京都府優秀技能賞の賞状と受賞者が載っている本「魁」。平成14年度、受賞。 | 
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| 香織:では次に、お豆腐へのこだわりについて教えて下さい。 
  森嘉:お客様のためにパックには詰めていますが、本来はパックにしたくはないです。表示もいらないと思います。豆腐が冷蔵ケースにあるのは寂しいことです、お水から直接出したものを食べてもらいたい。 
  香織:なるほど。やっぱりお豆腐も新鮮なものが良いってことですね。では、お豆腐をおいしく食べるうえで他になにかアドバイスはありますか? 
  森嘉:お豆腐はそれぞれ個性があって、おもしろい。だから探検隊も出来るでしょう?スーパーで買わないでその日食べる分をお豆腐屋さんで買って行ったらいいと思いますよ。 
  香織:いろいろなお豆腐を試してみることが大切なんですね☆じゃぁ最後に、森嘉さんはこれからどういうお豆腐を作っていきたいですか? 
  森嘉:1丁ぺロッと食べられてしまう豆腐を作るのが目標です。雑穀本来の甘みを感じ、その甘みがさらっと消える。そしてまた箸をのばしたくなるような。豆のよさが豆腐で食せたらと思っています。 
  香織:なるほど。こんなに愛情を持ってお豆腐を作っている森嘉さんなら、きっとそんなお豆腐を作っていかれるのだと確信しています。ありがとうございました。 
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| ↑貴重なお話、本当にありがとうございます。 |